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FE108SS-HP の試聴
D-101S(スーパースワン) で聴く FE108SS-HP

乙訓 それでは試聴してみましょう。

炭山 まずは「古代ギリシャの音楽」から。

古代ギリシャの音楽
Tr.1 Anakrousis / Orestes Stasimo

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炭山 物凄い精密感と力感、実体感ですね。聴き入ってしまいます。これは参りましたね。恐ろしいユニットです。

乙訓 怖い感じはしないと思います。スーパースワンとの親和性が高くないですか?

炭山 スーパースワンをここまで自然に鳴らすユニットはなかなかないと思います。これは驚きです。自然さだけではなく音に新しさがあります。これは表現に困りますね。

乙訓 FE168SS-HP を聴いて頂いたときもそうだったと思うのですが、痛くないと思います。それでいて刺激はあると思います。押し付けがましくなく、聴き手が我慢せずに聴くことができます。

炭山 昔の FE108Super だとガン!となぐられるようなところがあったと思います。それがないのに力感と切れ味はあるんです。パンチがないかといえばパンチはあるんです。これは凄いです。

乙訓 なまくらにしたから聴きやすいというわけではなく、鋭いけれども聴きやすいという状態です。

炭山 本当に切れ味の良い刀は切られても痛くないというのに近いかもしれません。

乙訓 コーラスに入ったあとも、低域の支えの上にコーラスが綺麗に乗ってくるのでずっと浸っていられます。

炭山 人工臭とか違和感とかスピード感の齟齬(そご)がありません。自然です。長岡先生にも聴いてもらいたいスーパースワンです。

乙訓 吸音材はヘッド部の背面にウール系が少し。開口部に粗毛フェルトが軽く敷いてあります。なるべくユーザーの方が今お持ちのスーパースワンにそのまま入れるだけで良い状態になればと思っています。オリジナルの状態からあまり手を加えていない方ほど上手くのではないでしょうか。これまでの限定品に合わせて色々チューニングしてある方は一度全部外した方が良いと思います。ブチルだとか鉛だとかを貼ってチューニングしている方は聴きづらいところがあったためだと思いますが、そうしたチューニングはなくても聴きづらいことはないと思います。

炭山 鉛を少量貼ったくらいだったら良いかもしれませんが、ブチルだと外した方が良いかもしれません。

乙訓 ヘッドのサイズもオリジナルの状態で問題ないと思います。

炭山 普通サイズのスーパースワンでも全く問題ないですね。昔、FE108ESII のときはスーパースワンを 5% 大きくした、スワン105% をつくりましたが。

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FE108ESII

乙訓 これを聴いて頂いた上で、「じゃあ次はこんなエンクロージャーではどうだろう」とアイディアを出していただければと思います。

炭山 CW型のバックロードホーンも頑張って作らなければと。そんな意欲がみなぎる音ですね。素晴らしいです。我が家にも入れたいですがどこに置きましょう。

乙訓 20cmの迫力はこれでは出ませんからそこは狙いません。このサイズで完結する良さを目指しています。

炭山FE208-Sol(20cmフルレンジ)を聴いていると、「よし! 大砲をかけてやれ」という気分にもなりますけれど。

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FE208-Sol

乙訓 だから色々な口径があって楽しいのだと思います。

炭山 本当にそうですね。

乙訓 FE108SS-HP は万能型ですけれど、振動板の大きさによる違いはどうしても出てきてしまいます。このユニットを使ってどんなにエンクロージャーを作り上げていっても 16cm や 20cm バックロードホーンの良さは出ないわけです。

炭山 FE168SS-HP と FE208-Sol はうちで使っていますが、 FE168SS-HP の方が音のコクとか彫りの深さは出るような気がします。FE208-Sol の方はどちらかと言えばサラっとしているように思います。ですから 20cm フルレンジが、例えば FE208SS-HP というものがでたとしたらどのようになるのかは楽しみです。

乙訓 (ドキッ)どうでしょうか。

炭山 サラッとした音のままということはないような気がします。

乙訓 これまでの 20cm フルレンジユニットと同じことをやっても仕方がないと思います。焼き直しをしたとしても当時できたことの中には今ではできなくなっていることもあるので、マイナスの結果になってしまいます。例えば FE208ES-R のようなアルニコの外磁というのはもう入手できない訳です。焼き直しをしても魅力ある製品がないのであれば新しい一手を考えるということになります。

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FE208ES-R

炭山 次はこちらを聴いてみましょう。

SELJA  / Seppo Kantonen
tr.6 Hän halusi paeta

炭山 スーパースワンの限界を突破したような音がしますね。

乙訓 正直他のユニットを使ったスーパースワンを至近距離の正面で聴くのはつらかったんです。

炭山 私は昔から正面でも大丈夫でしたが(笑)

炭山 このソフトは色々なことがわかるんです。クラシックの弦の状態、ボーカルやピアノ、パーカッションまでこの一枚でわかるんです。

乙訓 このユニットはどのようなソフトを聴いても良く感じられるように作りました。

Vox Silentii / Passio Sanctarum Filiarum (Passion of the Holy Daughters)
tr.1 Helena Vesgocie (St. Helen of Sweden)

炭山 この曲はメインボーカルではないコーラスの人たちがオーバートーン唱法(倍音唱法)をやっているんです。オーバートーンだとものすごく高い音までハーモニーが響くので、そこが荒れてしまうと聴けなくなってしまいます。

乙訓 普通のフルレンジでこれを再生するのは難しいと思います。

炭山 ですから中高域から高域にかけてピーク成分のようなものが入っているんです。

乙訓 その音が出過ぎてしまうと「ヒャーーン」となって我慢できなくなってしまうんです。

炭山 初期のころの FE108Super だとその帯域にザラっとした質感が乗っているとかなり聴きづらくなってしまいます。

乙訓 同じくらいの音程に聴きづらい音が次々に乗ってきてしまいます。そこを振動板のところで説明したようなダンプ剤などで調整するわけです。たくさん塗ればおとなしくなって聴きづらい音はしなくなるんですが、全く面白くなくなります。一方で全く塗らなければ聴きづらくなってしまいます。

炭山 オーバートーンの美しさがツィーター無しに出てきます。すごいユニットです。

乙訓 ツィーターを乗せればもっと良くなりますよ。

炭山 そうですね。

乙訓 次はこちらをどうぞ。

Live at Tonic / Christian McBride
disc 1 tr.8 Boogie Woogie Waltz

炭山 これは面白い編成ですね。

乙訓 10cm ユニットですが低音が聴けてしまっています。この後もベースの曲をお聴かせしたいと思いますが、私も FE108SS-HP ではいつもベースの曲ばかり聴いてしまいます。

炭山 10cm のバックロードホーンで一番苦手なのはベース帯域だと思います。下手をすると膨らんでもこもこしてしまいます。

乙訓 音程が曖昧になってしまっても「こんなものか」と思っていたと思います。

炭山 20cm だと気にならないのですが。10cm の場合はそこのところをうまく表現させられるかどうかで大きな差が出てしまいます。

HANDS Solo Acoustic Bass / Brian Bromberg
tr.1 Stella By Starlight

炭山 キングレコードによるすごい録音です。胴の部分だけで 3m、全高 5m くらいに感じるほどの大きな音像でした。すごい音でした。

乙訓 音像が大きかったですか。

炭山 それを再生してしまう 10cm フルレンジもすごいですが。

乙訓 今のは途中で音量を少し絞りました。ちょっと振幅が大きくなり過ぎたところがあったかもしれません。ただほんの少しです。以前のモデルだともっと大きく外れてしまうと思います。そこはダンパーでしっかりと外さないようにおさまっています。エッジもそうなんですが、ここはダンパーの効果が大きいです。

炭山 すごい音がこのちっぽけな振動板から出てくるんですね。

BOZ SCAGGS / HITS!
tr.8 JOJO

Beethoven Violine Concerto / Anne-Sophie Mutter
tr.2 Concerto For Violin And Orchestra In D Major Op. 61, II Larghetto

乙訓 この録音はノイズは結構あるんですが、あえてノイズを消していないので音楽の表情が消えていません。

炭山 音楽が始まってしまえばノイズは気にならなくなります。S/N とは何かということを考えさせられますね。ノイズを消すことで失うものもあるということでしょうか。

乙訓 S/N ばかり気にしていたら聴けなくなる音楽もたくさんあります。

炭山 SP盤もあのシャリシャリの中から素晴らしい音楽が聴こえてきます。CDで復刻されたときに鼻が詰まったように高域が切られてしまうことがあったりします。

乙訓 FE108SS-HP を試聴していると音楽談義になっていってしまいます。スピーカーは音楽を聴くための道具ですから。

炭山 完璧に近い道具だと思います。モニター的にも聴ければ、音楽鑑賞でも力を発揮します。ガチン!と来るところは来てくれます。

乙訓 フルレンジファンには今のような音も認めていただけると思います。2way ファンは今のようなバイオリンの音の出方には違和感を感じるかもしれません。

炭山 出過ぎる感じでしょうか。

乙訓 バイオリンコンチェルトであんな風にバイオリンの音が出てくることはないのではないかと。そういう見方をすればバランスは悪いとも言えるかもしれません。そういう方からすれば「合いません」となるわけですし、「そこがいい」とおっしゃる方もいるわけです。私はフルレンジも 2way もどちらも好きです。

Application Sheet のバックロードホーン

乙訓 最後にスーパースワン以外のエンクロージャーとして、ユニット付属の Application Sheet に掲載されているバックロードホーンの音を聴いて頂きましょう。

炭山 再び「古代ギリシャの音楽」から。

古代ギリシャの音楽
tr.1 Anakrousis / Orestes Stasimo

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炭山 スーパースワンに付いていたユニットよりもこちらの方がエージングが進んでいますか?

乙訓 同じです。

炭山 こちらの方が鳴りっぷりがいいように感じました。場にそのままスッと入っていけるのはスーパースワンですがこちらは「バンッ」と押してくるような感じです。

乙訓 スーパースワンは音場が作られるようなイメージです。こちらはユニットの周りにバッフルがありますので押し出すような感じは出てきます。

炭山 そうですね。

乙訓 どっちが好みかということになりますね。こちらはフロント開口ということもあります。低域の密度感が出てきます。

炭山 そうですね。私も鳥形バックロードを作るときはフロント開口にしています。

乙訓 ホーンツィーターを付けるとまたさらに変わります。

炭山 音の品位があがり、音場も広がりますね。

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仲前 FE108SS-HPは特別な仕様ならではの、音の楽しみ方がまだまだありそうですね。たくさんの方々にこのユニットの音を体感していただきたいです!
本日はライターの炭山さんと設計開発者の乙訓と対談していただきました。炭山さんどうもありがとうございました。

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FE108SS-HPを使ってスーパースワンを楽しみたい方へご紹介の記事

■ SPEAKER FACTORY  XPERIENCE
「FE108SS-HPをスーパースワンで使う」

FE108SS-HP をスーパースワンで使う Part 1 | Speaker Factory | Xperience FE108SS-HP の登場と D-101S(スーパースワン) 2022年2月、フォステクスからバックロードホ www.xperience.jp

■ 音楽之友社 stereo 2022年8月号
増大特集 オーディオクラフト2022 バックロードホーンの世界

 炭山アキラ氏
「スワンとは何か~」
榎本憲男氏
「このやり方で、まだまだ先に行ける!スーパースワン調整法 伝授」

月刊誌 stereo – 音楽之友社 ●特集ストリーミング派、アナログ派新編 アナログ×ストリーミング 同一音源比較試聴会(小野島大×田中伊佐資)ストリーミング www.ongakunotomo.co.jp

炭山 アキラ プロフィール

1964年、兵庫県生まれ。1990年、バブル期の人手不足に乗じて共同通信社AV FRONT編集部へバイトとして潜り込み、いつの間にか隣のFMfan編集部で故・長岡鉄男氏の担当編集者となる。2000年、長岡氏の急逝により慌ててライターへ転身し、現在に至る。

乙訓 克之 プロフィール

フォスター電機株式会社
フォステクス カンパニー スピーカー設計
1986年フォスター電機株式会社入社。フォステクス株式会社
(当時)に出向・転籍。FOSTEXではFE166Σ,FE166S,FE108S, FE208S, BC10, S100, FW-7シリーズ, FT27D, R100T, P45などの開発を担当。その後フォスター電機に戻り、ホームオーディオやテレビ用スピーカーのOEM開発を担当。その後海外赴任先で引き続きOEM開発を行うとともに、PMシリーズや T250D などを開発する。2008年、フォステクス カンパニーに復帰。以降、HiFiスピーカーシステム Gシリーズ、GXシリーズなどを開発。近年はW160A-HR,T250A,FE168SS-HPを開発する。振動板などの材料、ユニット、システムまで一貫して開発するフォステクスのスピーカー開発の中心的人物。(2022年現在)

FE108SS-HP 限定発売! (2022年2月25日)

FE108SS-HP特集 その1
・FE108SS-HPの紹介
・振動板の色と素材
・HP形状の振動板
FE108SS-HP特集 その2
・測定値と設計の狙い
・ボトムプレートとポールピース
・ダイキャストフレーム
FE108SS-HP特集 その3
・エッジ
・ダンパー
・センターキャップ/ボイスコイルとボビン
・ダンプ剤
・ハトメレス
FE108SS-HP特集 その4
・FE108SS-HP の試聴
・D-101S(スーパースワン) で聴く FE108SS-HP
・Application Sheet のバックロードホーン