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エッジ

乙訓 エッジは UDR タンジェンシャルエッジです。これは FE168SS-HP と同じです。

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炭山 このエッジは FE108EΣ などで長いこと使っていますが劣化しないですね。

仲前 古くからのオーディオファンの方からもエッジについての問い合わせはきますが、このエッジは大丈夫ですね。

乙訓 北米大陸で問題のない素材でも高温多湿なアジアの地区ではダメということもあります。

炭山 そんなことがあるんですね。

乙訓 私たちが使う材料は日本の気候で使うことを前提に選択しています。ポリカーボネート、ポリエーテル系のポリウレタンのフォーム材です。昔の弊社のモデルでもエッジがダメになってしまうものはありました。

炭山 いわゆるウレタンのエッジですね。

乙訓 買ったあとに押入にしまっておいて、開けたらエッジがダメになっていたということもありました。

炭山 使ってあげた方が良いですね。

乙訓 使って動かしていた方のものは問題なくても、押入に湿気があったりするとダメなのかもしれません。

炭山 靴屋の友人がいるのですが、ウレタン底の靴は定期的に履いた方がいいようですね。履かずにしまっておくとボロボロになるみたいです。

乙訓 私も経験があります。大切にしまっておいた靴を履いて出かけたら途中でボロボロになるという。

炭山 同じ経験があります。

仲前 スニーカーもそうですが、限定品を購入したまましまっておくという趣味の方もいらっしゃるようです。

乙訓 このエッジ材はしっとり具合と乾き具合がちょうどいいと感じています。他のフォーム材では出せない独特の良さがあります。フォーム材は乾いた感じが良いという方もいらっしゃいます。あまりしっとりしていると良くないという。このフォーム材は一番新しい材質なのですが、ちょうど良いと感じています。

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炭山 個人的には他社メーカーの商品でちょっとしっとりし過ぎていると感じるものもあります。

乙訓 エッジで全てが決まるわけではないですが、エッジの特徴も全体の音に残ります。

仲前 エッジからもしっかり音がでていますしね。

炭山 そうですよね。

乙訓 そうなんです、エッジの面積は結構大きいんです。小口径になればなおさらその割合が大きくなります。振動板からだけではなくエッジからも音は出ていますからその影響は大きいです。

炭山 エッジやボイスコイルからも音はでていますからね。

乙訓 エッジから発せられる音は材料としてはゴムが出にくく、紙が出やすいです。紙のエッジが一番音が出ていますから、敢えてそうしたいときには紙を使います、次が布、次がフォーム材、次に NFR(発泡ゴム)、最後にゴムといった感じです。音量上はそうなります。そんなに音を出してしまうなら取ってしまおうということで昔、フォステクスにはエッジレスのモデルもありました。エッジの悪さは無くなるんですがそれ以外に問題があったような気がします。

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炭山 SLE のシリーズですね。SLE は素性は良かったような気がします。今後作ることはないのでしょうか?

乙訓 今後はないですね。用途があって、需要があるのであれば発展させる部分はあるのかもしれませんが。

ダンパー

仲前 ダンパーも振動板の後ろにありますが同様に音に影響しますね。

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乙訓 ダンパーも動いている訳ですから同様に影響します。 FE108SS-HP はダンパーも UDRタンジェンシャルダンパーで素材は化繊です。

乙訓 ダンパーはいくつかの変位違いのものを作りましたが、作った中では最も柔らかいものになりました。結果的には FE108EΣ や FE108ES II と同じになっています。ダンパーは柔らかいとダラダラと下まで伸びますが力がなくなります。

炭山 押してみて柔らかいと「あ、これはバックロードホーン向きだ」と思ってしまうのですがそんなに簡単な問題ではないですね。

乙訓 低音の量をどこまでも出すのであれば柔らかい方が良いのですが、そうなると低音の締まりが極端になくなってしまいます。10cm という小口径ですから量が欲しいのは確かです。かといって量だけに走ってしまうと質が伴わなくなり「こんな低音ならいらない」となってしまいます。そういうこともあってより硬いダンパーも試してみたのですが、結果的には柔らかいものでも大丈夫だったということです。

炭山 御社は布のコルゲーションとかタンジェンシャルのダンパーをお使いですが、バタフライとかそういったものは商品にはないですね。実験して良くなかったというようなことがあるのでしょうか。通気はそれらの方が良さそうに感じますが。

乙訓 狙い所がどこかによりますね。

炭山 動きをよくすれば良いという問題でもないということでしょうか。

乙訓 どの方式が優れていてどの方式がダメということではなく狙いの音を達成するためにどうするべきということでしょうか。他社にはダンパーがないというモデルもあります。それはそうすることで達せられる目的があったのだと思います。今回の私の設計ではちゃんと支えてあげるという方針をとったということです。

炭山 一番しっかり支えられるのは今回のような面で支えるものになりそうですね。

乙訓 さらに言えば、HR振動板のときはダンパーは2枚貼ります。そうすると振幅に対する安定性は明らかに上がることになります。繰り返しになりますが、何を目指すかによって選択するものが違うわけです。それぞれの形状、材質、方式に特徴があります。今回の FE108SS-HP というユニットが性能としてどうあるべきかということに対して最適な形状、材質、方式を選択したということです。例えば W160A-HR (プレミアムクラフトの 16cm ウーハー) ではエッジはUDRタンジェンシャルエッジですがダンパーはコルゲーション2枚です。それにも同様に理由があるわけです。このウーハーにはフルレンジとはまた異なる低域の再現性が求められますので、その特長を伸ばすための選択になるわけです。

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炭山 ダンパーの材質が布であることは共通なんですね。

乙訓 そうですね。

仲前 今までの検証の蓄積であったり、音作りの実績、品質上の信頼性の問題もありますね。

センターキャップ/ボイスコイルとボビン

乙訓 センターキャップも FE108EΣ や FE108ESII では稜線が3本でしたが今回は5本に増えています。材質や製法は振動板同様です。

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炭山 本当に写真でみると 16cm と区別がつかないですね。

乙訓 こうして落としてみたときの音もいい感じではないですか?(センターキャップのパーツを机の上に落としてみて)

炭山 確かにそうですね。カラっとしてますね。

乙訓 響いたあとにスーッと消えていく感じです。厚みや質量などの数値も大切ですが、こうしてみたときの音というのも大切です。

炭山 音速が高くて内部損失も高い音ということですね。

乙訓 ボイスコイルのボビンは ガラスクロスに樹脂が入っているタイプ、FRP です。FE168SS-HP と同じです。

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炭山 触ってもいいですか? (手に取った上で)軽いですね。銅線が巻かれているのが不思議なくらいです。

乙訓 線材は FE168SS-HP では CCAW(銅クラッドアルミ線) でしたが FE108SS-HP では PEW(銅線)です。

乙訓 今回、ボイスコイルの線径は何種類かを試して、Φ0.12mm を採用しました。Φ0.13mm は力強くバランスが良いです。通常モデルに採用するのであればこちらになります。FE108EΣ、FE108-Sol は Φ0.13 が採用されています。Φ0.12 は中高域以上を強化したバランスで扱いにくいですが、空間表現や質感が優れていて、そこに可能性を感じました。バックロードホーンに入れた時にはここにメリットがあると判断しました。この2種類は比較試聴してすぐに「こちら」と決めたわけではありません。どちらの線径でも振動板を変えたり、その他の要素も調整するなどした上で、最終的に決めています。最後はやはりバックロードホーンに入れたときにどうなるかということで決めました。Φ0.13 が負けたというよりは Φ0.12 が僅かに勝ったというところです。このあたりのせめぎ合いは自分の中でもどちらが良いかということは悩みました。結果としては Φ0.12 として中高域以上のハリの部分をとりました。バックロードに入れずにバスレフでということであれば Φ0.13 が候補になったと思います。
Φ0.12 よりも細くしていくと繊細さは上がっていくことになりますが、馬力がなくなっていきます。バックロードホーンに入れるのであればこれよりも細い線径は向かないと思います。

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乙訓 前回炭山さんとお話ししたときの BC10(1993年の限定フルレンジユニット)がバックロードホーンに向かないという話がありました。 BC10 は Φ0.1 という細い線径のボイスコイルを採用していて、まさにバックロードホーンには向かない設計になっていたと言えます。あのモデルでは繊細さが優先されています。あの振動板で馬力を上げてしまうと振動板が負けてしまいます。

炭山 そうなんですね。BC10 は今でも完動品があれば自分でキャビネットを設計してみたいくらいです。もうあっても当時の性能は出ていないと思いますが。

乙訓 私もぜひ作ってみたいですね。30年後の BC10 がどうなるか。まだ妄想ですが。

仲前 現在は素材も新しくなっていますし。

炭山 BC10 の振動板は 100% バイオセルロースでしたか?

乙訓 70% です。100% では振動板は作れないんですね。

炭山 ほとんど 100% に近いという話が飛び交っていました。

乙訓 当時その情報は公開していなかったと思います。1992年〜1993年の資料ではそうなっていました。

炭山 BC10 は本当に繊細でクールで伸びやかで。良質のサブウーハーを加えて、少し小さめのサテライトのような使い方をしたら非常に高品質なスピーカーになりそうです。

乙訓 そのようなスピーカーにするためには、バックロードホーンには使わないと決めることが必要ですね。バックロードホーンに使える資質のままでは難しいかもしれません。バックロードホーンで使うためには力が必要です。力をつけて筋肉ムキムキにしたら繊細さは出にくくなります。バスレフでの繊細さを出すためにはそのような設計が必要になります。

仲前 今のお話から、ボイスコイルワイヤーの線径が非常に重要であることがわかります。

乙訓 磁石の場合は大きい方がいかにも良さそうですが、ワイヤーの線径は太いのと細いのとでは性格が大きく変わってしまうので、配慮が必要です。

ボイスコイルはボビンと巻線で構成されています。巻線はワイヤー径と材質を選択します。ワイヤー径については先ほどお話したとおりです。材料にもいろいろな素材がありますが、私が好きなのは銅線です。CCA(銅覆アルミ) を使うときはどのような音色にしたいという具体的な狙いがあります。ツィーターでバチッと出したいときには CCA が力を発揮します。この感じは銅線では出すことができません。繊細な音を出したいような場合には銅線を使います。

炭山 銅線の方が繊細なんですね。

乙訓 そうですね。

ダンプ剤

仲前 振動板の裏に5箇所のダンプ剤が塗られていうように見えますが。

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乙訓 このダンプ剤は FE168SS-HP にも付いています。

炭山 知らない人が見たら接着剤がはみ出しているように見えます。

乙訓 これがないと自由に暴れます。この「暴れ」が自然で良いという意見もあるかもしれません。ただ自動車に乗って「バタバタバタ」となったとして、これが自然で良いとなりますか? それを整えるために必要なものです。これを使うことによってつまらなくなるようなことまではしていません。質を高めるためにギリギリのところを狙っています。

炭山 きょうは「ギリギリ」という言葉をよく聞くような気がします。

乙訓 限定品ですから。何事もギリギリを狙います。取り付ける時もギリギリです。

炭山 確かに(笑)。太い内部配線材を使ってさらにギリギリというユーザーもいらっしゃいます。

乙訓 配線材は SFC103 の内部の線にファストンがかしめてあるものが同梱してありますのでそれを使ってください。

炭山 SFC103 であればエージングが済めばそれほどキャラクターの強くない線ですね。

乙訓 そこから先に行きたい方は行って頂ければと思います。最初につける線としてご活用ください。

乙訓 振動板背面の制動剤(ダンプ剤)の話に戻りますと、これは無くてもユニットは作れるわけですが、無いと固有の音が激しく出てきてつらくなってきます。常にピャンピャン鳴っている感じです。

炭山 それはそれで聴いてみたい気もします。

乙訓 音楽の要素である音色が常にその音になってしまいます。

炭山 一本調子になってしまうんですね。

乙訓 ずっとその音が聴こえ続けてしまいます。ですから音程が変わると急に強くなったりしてつらいんですね。つらくなければそのまま出す訳ですが。ダンプ剤によって余計な共振を「抑える」というよりは「コントロール」する感じです。ダンプ剤の適量は「塗りすぎ」と「不足」の間に適正値があると仮定して実験しました。無しの状態だと特定の周波数での鳴きが強くてつらかったです。次にたっぷりと0.3g 塗りました。鳴きは収まり、周波数特性も綺麗になります。この状態で聴いてみると綺麗には鳴るんですが活きがよくなくなります。音を聴いて塗りすぎだということがわかったのでそこから減らしていきます。0.2g でも少し多い。0.1g では少し足りない。 0.15g で制動効果と活きの良さがうまくバランスしました。振動板の裏に 0.03g ずつ5ヶ所塗布して 0.15g 塗布された状態になっています。

炭山 これは凄いですね。

乙訓 f特にも影響が出ますし、レーザードップラー計でももちろん違いを見ることができます。HP形状によって共振を分散することができるわけですが、さらに適正化を図るための工夫です。こちらが測定で出た結果です。ただこれを見ても誤解が生まれてしまいそうですね。

炭山 拝見します。たしかにすごく違いが出ますね。

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乙訓 ただ、この結果だけをみると、一番たくさん塗布した時の状態が一番良いように見えてしまうんです。

炭山 結果だけを見ると、塗布量の差よりも「全く無しか、少しだけ塗布するか」の違いが大きいです。塗布量の差による違いは測定結果からは読み取るのは難しいですが、聴感では聴き取れるということなんですね。面白いです。

乙訓 計測して良いと思うものと聴いて良いと思うものが違うことが多いので、必ず聴いて判断することが必要です。

炭山 概して測定だけだと「(測定値が)綺麗になったね、つまらない音だね」というふうになりがちです。

ハトメレス

乙訓 今回のモデルもハトメレスです。振動板の奥行を浅くすることによってスペースができ、ハトメレスが実現できています。

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炭山 浅くなっているようには見えませんが。FE108EΣ よりも浅いんですか?

乙訓 そうです。

炭山 言われてみればそうかもしれません。ご説明頂いた上でみると確かにそうなっていますね。印象では全くわかりません。

乙訓 振動板にハトメを打つと打ったところを化粧しなければなりません。その点を考えなくてよいのもメリットです。これからはハトメはほぼなくなると思います。

炭山 完全にハトメレスの技術が確立されたということなんですね。

乙訓 ターミナルの位置は 180° 方向に付いています。これはFE108ESⅡやFE108SEΣと同じです。しかしターミナルラグとティンセルワイヤーの接続方法は FE108EΣ とは違います。FE108EΣ ではラグのターミナルの金属の穴の部分にワイヤーを通してハンダしています。今回の FE108SS-HP ではラグにターミナルに金属の突起フックが出ていてラグ金属とワイヤーが確実に接触した状態でハンダ付けされています。

炭山 なるほど。説明されないと気がつかないポイントです。

炭山 アキラ プロフィール

1964年、兵庫県生まれ。1990年、バブル期の人手不足に乗じて共同通信社AV FRONT編集部へバイトとして潜り込み、いつの間にか隣のFMfan編集部で故・長岡鉄男氏の担当編集者となる。2000年、長岡氏の急逝により慌ててライターへ転身し、現在に至る。

乙訓 克之 プロフィール

フォスター電機株式会社
フォステクス カンパニー スピーカー設計
1986年フォスター電機株式会社入社。フォステクス株式会社
(当時)に出向・転籍。FOSTEXではFE166Σ,FE166S,FE108S, FE208S, BC10, S100, FW-7シリーズ, FT27D, R100T, P45などの開発を担当。その後フォスター電機に戻り、ホームオーディオやテレビ用スピーカーのOEM開発を担当。その後海外赴任先で引き続きOEM開発を行うとともに、PMシリーズや T250D などを開発する。2008年、フォステクス カンパニーに復帰。以降、HiFiスピーカーシステム Gシリーズ、GXシリーズなどを開発。近年はW160A-HR,T250A,FE168SS-HPを開発する。振動板などの材料、ユニット、システムまで一貫して開発するフォステクスのスピーカー開発の中心的人物。(2022年現在)

FE108SS-HP 限定発売! (2022年2月25日)

FE108SS-HP特集 その1
・FE108SS-HPの紹介
・振動板の色と素材
・HP形状の振動板
FE108SS-HP特集 その2
・測定値と設計の狙い
・ボトムプレートとポールピース
・ダイキャストフレーム
FE108SS-HP特集 その3
・エッジ
・ダンパー
・センターキャップ/ボイスコイルとボビン
・ダンプ剤
・ハトメレス
FE108SS-HP特集 その4
・FE108SS-HP の試聴
・D-101S(スーパースワン) で聴く FE108SS-HP
・Application Sheet のバックロードホーン