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司会 前回はバックロードホーンのエンクロージャーの設計や吸音材による調整について語っていただきました。今回はフルレンジをグレードアップする時の定番、スーパーツイーターの使い方や効果についてお話いただきたいと思います。

FE108NS に FT96H を加える

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「FT96H」(生産終了)

司会 いきなりですが、まずは早速聴いてみましょう。前回からそのまま FE108NS を炭山さん設計の「レス」に入れ、そこに Fostex FT96H を 0.1μF、逆相、面位置でセットしました。(炭山さんが普段使用されている状態)

【試聴】

<一同感嘆>

司会 高域の質感が向上しているのはもちろん、低域の締まり具合、明瞭度が向上しているように感じます。

炭山 あるんだったら絶対につけたい。良いですね。

乙訓 ツィーターが無かった時に少し気になった声のところも(中低域のボーボー気味な音も)緩和されているように感じます。聴きやすくなりました。

司会 よく 10cm フルレンジは高域が出ているからツィーターは不要では? という声も聞きます。

炭山 音が「量」として出ているのと、その音が「質」を伴っているかは別だということですね。 FE108NS の高域は量としても質としても水準以上だとは思いますが、やはりツィーターの音と比較してしまうと敵いません。

乙訓 第1回の冒頭でもお話したとおり、全帯域を再生するフルレンジよりも高域専用のドライバーであるツィーターの方が高域再生には向いているわけです。フルレンジから再生されている高域の量が足りていたとしても、そこに質の高いツィーターの音が加わると、そのツィーターの音圧がフルレンジの音圧より低かったとしても、質的向上の効果が得られます。

炭山 スーパーツィーターの音圧がメインシステムより 20dB くらい低くても、スーパーツィーターが加わる効果が得られる例はありますね。

司会 高域の量が足りないからアンプのトーンコントロール(トレブル)を上げましょうというのとは全く違うというわけですね。

乙訓 そうです。量ではなく質を足すということです。

司会 スーパーツィーターを加えるということとトレブルを上げるということは全く意図が異なるということは理解しておく必要がありそうです。

乙訓 量だけを増やしても、質的向上の効果はありません。

司会 ユーザーの疑問として、例えば「1μF 以下のコンデンサを使用するとクロスオーバー周波数が数十kHz になるが意味はあるのか?」とか「クロスさせるのであればフルレンジ側にもコイルをいれてクロスさせた方が良いのではないか?」といったことも耳にします。ホーンツィーターは音圧も高いので「アッテネーターも必要なのでは?」という疑問もよく聞きます。

(ex. 8Ωのスピーカーに1μFのコンデンサを直列に接続したHPFのカットオフ周波数は、fc=1/2πRCの計算式より19,894Hz。
8Ωのスピーカーのコイルを直列に接続したLPFでfcを20kHzにするには、fc=R/2πLより、L≒0.063mHとなる。)

乙訓 気持ちはわかります。コイルなどは実際にやってみるのが良いと思います。
フルレンジにはネットワーク部品を入れずにそのまま出して、そこにスーパーツィーターを加えるような場合は、主の音源(ここで言うFE108NSの音圧)に対して、スーパーツィーターの音圧はかなり低いので、両者の音圧が干渉して悪さをするということはありません。反対に悪影響を及ぼす様ではツィーターの音圧が大き過ぎると思います。

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炭山 「やってみると良い」というのは私も賛成です。コイルを入れることによる音質の変化は一度味わってみてもらいたいです。(別途、実験結果を掲載予定)

FE108NS に T96A を加える

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T96A

乙訓 そのままツィーターを T96A に変えてみましょう。

【試聴】(スーパーツィーターを T96A に交換、 0.1μF、逆相、面位置)

炭山 スーパーツィーターってどんなに欲張っても 5kHz より下は出てないわけです。それなのにベースドラムのスピード感ですら上がるんですよね。

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乙訓 低域が鳴った時の倍音まで含めた全ての波形の再現性が上がっているからです。繰り返しになりますが高域の音圧の問題ではありません。

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炭山 この T96A、(昔のモデルの FT96H と比べると)さらに進化していますね。

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司会 ちょっと聴いた限りでは 10cm フルレンジの音とはとても思えない品の良さを感じます。

乙訓 単体で聴いたときに素晴らしいと感じたフルレンジも、スーパーツィーターがアドオンされるとやはり「専門家が加わるといいね」となりますね。

炭山 刺身は醤油だけでも美味しいけれどもわさびがあるともっと美味しいという感じでしょうか。

<続く>

炭山 アキラ プロフィール
1964年、兵庫県生まれ。1990年、バブル期の人手不足に乗じて共同通信社AV FRONT編集部へバイトとして潜り込み、いつの間にか隣のFMfan編集部で故・長岡鉄男氏の担当編集者となる。2000年、長岡氏の急逝により慌ててライターへ転身し、現在に至る。

乙訓 克之 プロフィール
フォスター電機株式会社
フォステクス カンパニー スピーカー設計
1986年フォスター電機株式会社入社。フォステクス株式会社
(当時)に出向・転籍。FOSTEXではFE166Σ,FE166S,FE108S, FE208S, BC10, S100, FW-7シリーズ, FT27D, R100T, P45などの開発を担当。その後フォスター電機に戻り、ホームオーディオやテレビ用スピーカーのOEM開発を担当。その後海外赴任先で引き続きOEM開発を行うとともに、PMシリーズや T250D などを開発する。2008年、フォステクス カンパニーに復帰。以降、HiFiスピーカーシステム Gシリーズ、GXシリーズなどを開発。近年はW160A-HR,T250A,FE168SS-HPを開発する。振動板などの材料、ユニット、システムまで一貫して開発するフォステクスのスピーカー開発の中心的人物。(2022年現在)

第一回:フルレンジスピーカーのススメ
第二回:バックロードホーンエンクロージャーのススメ
第三回:スーパーツイーターのススメ
第四回:バックロードホーンに好適なフルレンジ