ASIAN KUNG-FU GENERATIONのフロントマンとしてだけではなく、ソロや様々なプロジェクトでも活躍するGotchこと後藤正文さんにFostexのヘッドホンTH900mk2とTH610をご愛用頂いています。
Fostexのヘッドホンをお選び頂いた理由やこれからの音楽制作に必要なこと、更にはプライベートでのリスニング環境まで、興味深いお話をお聞きすることができました。ぜひご一読ください!


 

Fostex:数多く存在するヘッドホンの中からTH900mk2とTH610をご使用頂きありがとうございます。このヘッドホンをお選びになったポントを教えて頂けますか?


Gotch:スタジオでエンジニアと一緒にテストしたり自宅で聞いたりしてみたのですけど、TH900mk2の方は再生レンジがとても広くて、TH610の方がよりフラットだと感じました。音楽を作る時には特性がフラットな方が良いので、TH610はモニター用として使用したいと思いました。TH900mk2はリスナーとして、聴いていて楽しいヘッドホンですね。ローからハイまで良く聞こえるので、本当はローエンドの音量をもう少し上げた方が良いかな?という場面でもTH900mk2は本当に良い感じに聴こえるので、「もうこれくらいでいいかな?」と安心しちゃう危ないヘッドホンでした(笑)レンジが広いハイレゾ音源を聴くにはもってこいなヘッドホンじゃないですかね。


Fostex:同じシリーズの製品なのですが、特性の違いで用途も変わってくると言うことですね。


Gotch:色々なメーカーの製品も試してみて、フォステクスもTH610がそうでしたが、最高級クラスのヘッドホンよりも、5〜6万円くらいのミドルクラスの製品の方が特性はフラットだと感じました。モニター用としてはそのクラスのヘッドホンが向いているのかもしれないですね。Spotifyで好きな音楽を聴いている時はTH900mk2が一番楽しかったです。


Fostex:それぞれの違いについてはドライバーユニットだけで無くハウジングに使用している木材や表面の仕上げ加工の違いも影響が大きいのですが、そう言う部材で変化する点はギターなどの楽器と同じかも知れません。


Gotch:そうですね、楽器と共通するところがありますね。TH900mk2は漆塗りの仕上げが綺麗で、本当にハイエンドって感じがして良いと思います。そりゃ高いよねって(笑)。TH610の方はコストパフォーマンスも良いし、ミュージシャンは各自これを買ってレコーディングしようぜ!って言いたい(笑)。海外のスタジオでも置いてあるヘッドホンはもう少し低価格なものが多いですよね。フォステクスのRPシリーズのヘッドホンもよく見かけましたよ。


Fostex:弊社のRPシリーズは海外のスタジオでは30年以上前から愛用されてきたヘッドホンなんです。海外のスタジオと言えば12月5日リリースのアジアンカンフージェネレーションのニューアルバム「ホームタウン」はアメリカでも作業されたのですよね?


Gotch:N.Yに行きました。今回はマスタリングだけだったのでスピーカーで聴く作業がほとんどでしたけど、フォステクスのヘッドホンアンプとTH610は持っていきましたよ!スタジオでマスタリングが終わったあとにホテルに帰ってきてTH610で聞き直してみて、この仕上がりなら帰国しても大丈夫かな?みたいな感じで(笑)


Fostex:無事に帰国できて良かったです(笑)


Gotch:海外と国内ではレコーディングスタジオの環境も違いますね。日本だと当たり前にあるキューボックス(ヘッドホンでモニターする時の音量やバランスを調整する装置)が無い所も多くて、その代わりに8chくらいのミキサーがそれぞれので席にドカッと置いてあって、そこに各々ヘッドホンを挿して聴いたり演奏したりするんですよ(笑)。環境が全然違っていて面白いですね。


Fostex:モニター用としては定番と言われるヘッドホンもありますが、そういった製品と比較してどのような違いがありましたか?


Gotch:サイン波でテストをしてみたんですけれど、昔からスタジオに置いてあるヘッドホンだと55Hzあたりが限界かな?もっと下の帯域なんかは全然聴こえなくて、狭い感じがしました。自分のスタジオのスピーカーでも25HZあたりが感じられたら良い方なんだけど、フォステクスのヘッドホンではずっと下の方まで聴こえたんですよ。前はスタジオにあるヘッドホンで良いやと思っていたけれど、今はもっと再生レンジの広いヘッドホンでモニターしながら録音やミックスのチェックをするべきということが分かってきて。TH900mk2はモニター用では無いかもしれないけど、ドラムのボトムや振動に近いようなシンセベースとか、聴こえてくる音が全然違ってきますね。


Fostex:スタジオでも活用頂けそうですね。


Gotch:次のアルバムではレコーディングから使ってみたいです。今回のアルバムではミックスのチェックなどには使ったけど、レコーディングでは使ってなかったので。解像度の高いヘッドホンを演奏中に使うことで、もしかしたら今まで気がつかなかった音が出てくるかも知れないし、どんな変化が生まれるか興味があります。TH900mk2をスタジオに持っていくのは怖いのでTH610にしておこうかな(笑)。スタジオに置いてあるヘッドホンだとブースから出る時とか、スタンドにガシャって置いていったりできるんだけど、それは頑丈だからって理由もあってですよね(笑)。フォステクスのヘッドホンはそぉ〜っと置かないとですね(笑)


Fostex:ヘッドホンが開発された時代背景もあるのでしょうね。今はハイレゾ音源も普及してきて、リスナー側の環境も大きく変化しました。


Gotch:本当にそうですね。音源やヘッドホンの性能が良くなってくるとミュージシャン側も気が抜けないですね。5Hzから上は30kHzとか、聴こえないのかもしれないけど、自分たちが鳴らそうと思っているところは届けられるということが分かったので。現在のハイレゾは高音域の再現性が重視されているように感じます。弦の擦れる音とかはクラシックを聴く時には全然違うんだろうけど、ロックやヒップホップって考えた時にはキックのドッと言うところとか、シンセベースのブーンって言うところの再現性が凄い大事になってきているので、TH610やTH900mk2の低域の再現力は本当に良いなって思いました。


Fostex:人間の聴感覚的にも高音域は変化を感じやすいのですが、低音域になると鈍ってくるので、開発する側としても低音域の再現が難しいですね。


Gotch:よく分かります。20Hz辺りになると音と言うより振動って感じですよね(笑)段々とピッチがわかりづらくなってくる(笑)


Fostex:例えばウッドベースの4弦開放だと40Hzくらいが鳴っているので、この辺りの再現力は最低限必要だと思っています。実際にはもっと下の帯域が鳴っている楽器もありますので、倍音成分なども考えると実は重要なエリアですね。


Gotch:ヘッドホンだと限られた大きさの中で再現しないといけないので、難しいのはよく分かります。ローエンドのモニター環境は業界的にも激変してきていて、これからはローをもっとちゃんとモニターしていかないと、海外の音楽とミックスの差とかがどんどん広がっていっちゃうと思います。それもあって本当にローを聴けるヘッドホンを探していて、ミュージシャン仲間からフォステクス良いよって勧められて、聴いてみたら本当に良くて(笑)


Fostex:ありがとうございます。そのTH900mk2やTH610ですが、実は若い方にも多くご購入頂いていまして。フォステクスとしてはミュージシャンやエンジニアの皆さんが丹精込めて制作された作品を濁らせないように良い音でお届けできたらと思っています。


Gotch:そうなんですね!スゴイなぁ。僕ら40代って、中学生の頃にミニコンポが流行って、友達がどこそこのメーカーのコンポを買ったら、皆で聴きに行ったりしていましたね。音楽を良い音で聴いていることがCoolとされていた時代だったと思います。今の子たちだと、プレイヤーはスマートホンが身近にあるから、僕たちにとってのコンポがヘッドホンやイヤホンになってくれたら良いなって思います。皆が良い音で聴こうとしてくれたら、素晴らしいことですよね。音が良いことを「楽しい」って思い始めると、音源もハイレゾで聴いてみようかな?とか、音楽への興味が膨らんでいくでしょうから。


Fostex:確かに。少しモニター寄りな聴き方かも知れませんが、ある展示会で普段は数千円のヘッドホンを使っているという方が、もう少し良い機種で聴いてみたら、今までは聴こえなかった楽器の音や音色が聴こえてきて楽しい言う感想をお聞きしたことがありました。


Gotch:ヘッドホンもリスナーフレンドリーなものとミュージシャンフレンドリーなものがあって、その辺りのバランスを皆さんとても考えて作っているんだなっていうのは良く分かります。TH900mk2とかTH610はフォステクスとしてはどちら向けに開発したんですか?


Fostex:シリーズとしてはリスナー向けに開発した製品ではありますが、フォステクスの製品開発の方向性としてモニター志向というのがありまして、極力色づけは無くしつつ、でも音楽をより楽しんでいただける製品作りを目指しています。


Gotch:聴き方って個人差があるので、人によって好みも違うし、モニター用のヘッドホンは使いながら馴染んでいくところがあるので、「このヘッドホンでこう聴こえてくるんだったら大丈夫」みたいな判断になって行くんでしょうね。


Fostex:ヘッドホン以外のモニター環境ですが、ご自身のスタジオのモニタースピーカーにはサブウーハーは導入されていらっしゃるのですか?


Gotch:サブウーハーを内蔵した少し大きめのスピーカーを使用しています。日本だと住環境的やスペースの問題もあって、サブウーハーの設置ができないスタジオもありますよね。海外だとサブウーハーなしでは作れないだろ?って音楽も多いですよね。


Fostex:海外と比較すると音楽用のスタジオだとサブウーハーの導入率はまだまだ低い印象があります。一方で映画制作用のスタジオではサブウーハーがあるのは当たり前ですね。


Gotch:映画を見ていると重低音がドォーンと来るシーンが沢山ありますもんね。むしろエンディングとかになってテーマソングが鳴った瞬間に「アレレ?低音無いぞ?!」ってギャップがあったりしますね。本編前の洋画の予告編の方が迫力があったり(笑)


Fostex:最近のフォーマットは低域の再生力が格段に上がってきているので、制作側でも低域のマネージメントは課題になっていますね。


Gotch:実際にローが聴こえた方が面白いと思います。海外の音楽を聴いていると、シンセベースとかギリギリのところまで広げていたりして、もう家庭用のスピーカーじゃ聴こえなくて、サビの部分だけベースがいなくなっちゃったみたいな(笑)。その点はヘッドホンで聴いた方がわかりやすいので、アドバンテージがありますね。僕のスタジオではルームアコースティックをマネージメントして、サブベースみたいな音域も確認できるようにしてあるのですけど、そういう場所だけじゃなくて、誰かのプライベートスタジオとか、自宅の環境だとローがブーミーになっちゃうこともあるので、やっぱりヘッドホンで再現性が保てる状態っていうのはありがたいです。


Fostex:環境や状況によってスピーカーとヘッドホンの使い分けが必要なのですね。


Gotch:実際には耳だけで作るっていうのは難しいところもあって、ローって身体で感じるって部分もあるじゃないですか?僕はスタジオでそういう音圧を経験しているので、「ヘッドホンでこれだけできていれば、スピーカーでも大丈夫」とか、想像はできるんです。その答え合わせをするのも楽しいですよ。TH900mk2で聴いたものがスタジオではOKかな?って。でもヘッドホンが良くても、自分の感覚が整ってないと判断つかないことがあるから半信半疑だったりする時もあって(笑)。そんな時はリファレンスになる曲を聴きます。僕はアラバマシェイクスのセカンドなんですけど。あのアルバムって絶妙ミックスなんですよ。そして、自分の曲を聴き直しながら響の違いを確認します。そういう作業も含めて楽しいです。


Fostex:同じ曲でも朝起きた時と夜寝る時では違って聞こえる時もありますね。


Gotch:ライブのリハーサルから帰ってきたあとは耳が終わっているから、そんな時に聴くと「アレ?なんで今日はこんなに音が良くない?あぁ、リハのあとだった!」って。今日はもうサウンドチェックをやっちゃダメみたいな(笑)


Fostex:どうしても耳を酷使するお仕事ですが、何かケアなどはされていらっしゃるのでしょうか?


Gotch:四六時中音楽を聴くってことはやめました。以前は移動中に音楽を聴いていたのですけど、それはやめました。移動中は何を聞いても寝ちゃうって言うのもあるんだけど(笑)やっぱり、ここぞって言う時に聴けるようにしていないといけないし。街中にいてもあちこちから音が入ってくるじゃないですか?ノイズキャンセリングヘッドホンとかもありますけど、あれは耳にかかる圧がちょっと苦手で。


Fostex:聴かれるときの音量などはどうでしょう?


Gotch:あまり大きな音では聴かないようには気をつけています。やっぱり耳を痛めるのは怖いので。適正な音量ってあると思うんですよね。やたら大きくしたからって聴こえてくるってものでは無いんじゃないかな?僕の調査ではベーシストが爆音で聴いている率が高いです(笑)


Fostex:プライベートで音楽を聞かれる時はスピーカーも使われたりされているのですか?


Gotch:家ではレコードプレイヤーを海外製のスピーカーに繋いでいるくらいです。レコードはスピーカーで聴くのが好きなんですけど、日本の住環境だとスピーカーで低音までしっかり出すのが難しいですよね。日々送られてくる音源なども、普段はパソコンからフェッドホンアンプに出して、ヘッドホンを繋いで聴いています。今だったらフォステクスのヘッドホンで聴くのが、一番音が良い(笑)。TH900mk2は装着感も良くて、長く着けていても疲れないですね。実はイヤホンは苦手で、耳に入れる部分の材質によって感触や音も変わるし、圧迫感があるのが。ヘッドホンの方が、耳が疲れないので良いです。


Fostex:疲れない事は音楽を楽しむ上でも大事ですね、


Gotch:自分のスタジオでレコードをモニタースピーカーに繋いで聴いてみたのですが、案外つまらなくて(笑)。ドライだし、分離が良すぎるんですよね。やっぱりモニター用とリスニング用って違うんだなって分かりましたし、違っていて良いんだと気づきました。ヘッドホンもそうですよね。エンジニアに言わせると、やっぱりTH900mk2だとお化粧されている感じがあって、これだけでミックスするのは危険だなって感想でした。ただ常にエンジニアの視点で聴いちゃうっていう不幸もあって、リスナーとして音楽を聴く立場だとしたら、ポイントはそこじゃないんだけどなぁって思う時もありますね(笑)。曲全体のメッセージだとか歌詞の意味だとかじゃなくて、音像の全体性やディティールをチェックしちゃうんですよね。


Fostex:ある種の職業病ですね(笑)


Gotch:そうそう、止めようエンジニア耳(笑)。ミックスがどうかも大切だけど、額縁に飾ってある絵を眺めるように、全体として音楽を楽しみながら聴けるようにしたいなと。


Fostex:もっと音楽自体を楽しもうと?


Gotch:ここ何年か、音楽をエンジニア寄りの耳で聴くことが当然になっていたんですけれど、TH900mk2は僕をただの音楽リスナーに戻してくれます。

 
後藤正文 プロフィール
 
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターであり、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がける。キューンミュージック(ソニー)から9枚目となる新作『ホームタウン』を2018年12月発表。先行シングル「ボーイズ&ガールズ」や映画『夜は短し歩けよ乙女』の主題歌「荒野を歩け」、またWeezerのRivers Cuomoとのコラボレート曲「ダンシングガール」など全10曲を収録。
初回盤にはFeederのGrant Nicholasとの共作「スリープ」(2019年公開、上白石萌音・山崎紘菜がW主演の映画「スタートアップガールズ」主題歌)やホリエアツシ(ストレイテナー)、THE CHARM PARKとの共作を含む5曲収録の『Can't Sleep EP』が付属。2019年3月から全35公演となる全国ツアー『ホームタウン』も開催。

2010年にはレーベル「only in dreams」を発足させ、webサイトも同時に開設。また、新しい時代やこれからの社会など私たちの未来を考える新聞『THE FUTURE TIMES』を編集長として発行するなど、 音楽はもちろんブログやTwitterでの社会とコミットした言動でも注目されている。
ソロアルバムに『Can’t Be Forever Young』やプロデューサーに元Death Cab for CutieのChris Wallaを迎えバンド録音を行った2ndソロアルバム『Good New Times』を発表。また著書に『凍った脳みそ』『銀河鉄道の星』『何度でもオールライトと歌え』(ミシマ社)、『YOROZU〜妄想の民俗史〜』(ロッキング・オン)他


http://www.asiankung-fu.com
http://gotch.info
http://www.onlyindreams.com/artist/gotch.html


 
使用ヘッドホン

 
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